木鐸社

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『レヴァイアサン』62号 [特集]排外主義の比較政治学

ISBN 978-4-8332-1178-9

〔特集の狙い〕排外主義の比較政治学 (文責 飯田 敬輔)

 前号の特集の狙いで,鹿毛委員が書いていたように,排外主義的傾向が欧米諸国の政治で顕著である。特に2016年には,英国のEU離脱,トランプ候補の米大統領選での勝利,2017年に入ってからも,フランスでは国民戦線,ドイツでは「ドイツのための選択肢」などが国政選挙で躍進し,オーストリアでは自由党が政権入りを数年ぶりに果たした。このように移民排斥を掲げるポピュリスト政党あるいはポピュリスト候補の台頭が目立つ。
 上記のような意味での排外主義は日本では主に社会学の分野で研究されてきた。もちろん,日本政治にもポピュリスト候補はそれなりの数はいるのであるが,日本では欧州に比べると排外主義はそれほど顕著ではなかったことがその一因かもしれない。
 欧州では,ポピュリスト政党がほぼどの国にも存在するので,ポピュリスト政党研究は政治学で長年にわたって行われてきておりそれなりの蓄積はあるが,これら政党が国政レベルで影響力を持つのは小国に限られるためか,比較政治の一大分野とはなるには至っていない。
 米国政治学では,2000年代に入ってから移民に対する態度の計量的研究がにわかに盛んになり始めた。嚆矢となったのは経済学者による一連の研究であったと思われる。それら初期の研究によると,主に,労働市場における競争(自国民と外国人が働き口を巡って競争すること)や財政的負担(移民が社会福祉給付を受けることにより財政負担が増すことに対する不安)など経済的要因が大きな要因であるとされた。これに対し,政治学者による研究が,これら経済的説明の限界を指摘するようになった。したがって,現在は,文化的信条などのような非経済的要因の方が重要であると思われている。
 本特集は,複数の国を取り上げ,それぞれの国の専門家に各国でどのような要因が排外主義を誘発しているかを分析していただいた。その成果は以下の通りである。
 まず,中山論文は,トランプ候補に見られる排外主義を米国政治史の中に位置付ける作業を行っている。移民の国であるアメリカでは,表向きに排外主義あるいは移民排斥を掲げることは正当とはみなされにくいものの,アメリカ文化の純粋性を保つ目的で排外主義がしばしば現れるという。19世紀に登場したノーナーシング党,19世紀後半から20世紀前半にかけて発生した「黄禍論」,それに触発された1924年の移民排斥法,戦時中の日系人の強制収容,1950年代のマッカーシズム,など排斥する対象や形態は変化しながらも定期的に出現している。しかし中山によれば,トランプとの類似性が最も強いのは,1992年,1996年,2000年のアメリカ大統領選に三たび出馬したブキャナン候補であるという。しかし,ブキャナン候補はいずれも落選したのに対し,トランプ候補は当選した。その違いは,移民(特に不法移民)の絶対数の増加,「オバマ・ファクター」,そしてソーシャルメディアの影響,などに求めることができるとする。トランプ候補を支持したのは,「ミドル・アメリカ・ラディカル」と呼ばれる人々であり,これらの人々は上記のような背景の下で危機感を強めていた。そして,クリントン候補は,トランプ候補と「ラディカル・フリンジ」とのつながりを告発したにもかかわらず,かえってそれが裏目に出たとされる。
 次に,若松論文は地域研究の立場から,英国による欧州懐疑論と移民との関係について検討している。上記にも書いたように,英国の国民投票によるEU離脱派の勝利は,「主権」回復のテーマとともに,移民に対する反感があるように,一般的には受け止められている。若松論文によれば,ことはそれほど単純ではないという。なるほど全国レベルでいえば,移民の数とEU懐疑との相関はほとんどない。しかし,特定の地域に限ってみれば,この間に密接な関係が見られるという。たとえば,イングランド東部にあるイーストミッドランズ地域である。ここでは,移民数の増加率と,EU懐疑論の間に正の相関があるという。この地域では,農業や食品加工業で働く東欧系の移民が近年急激に増加していた。このほか,イングランド北部の旧炭鉱地域にも同様の傾向が見られるという。これとは逆に,移民がいまだ少ないにもかかわらず,EU懐疑論が強いのはテムズ川河口地域であるとされている。
 続く中井論文は欧州各国のデータを分析している。特に,「人種」が「排外主義」およびそれを誘発する要因とどのように結びついているかに焦点を当てている。中井氏は,移民忌避を人種にかかわらず外国人であればだれでも嫌悪する「人種横断型」と,自国民の人種とは異なる外国人のみ嫌悪する「人種差別型」に分けて,それぞれに影響する要因を分析している。解析結果によると,すでに先行研究でしばしば指摘される要因(例:年齢,学歴,党派性,等)はどちらのタイプにも影響を与えている一方で,政府への不満,治安への不安,そして秩序志向については,人種横断型のみに影響しているという。また,西欧と東欧をわけて分析したところ,東欧では女性,および専門職についている人は移民に寛容である一方,政治・経済への不満や自国文化尊重意識が移民に対する態度に影響しているのは西欧だけであるという。
 次の2編は日本の移民に対する態度を扱う。まず鹿毛・田中・ローゼンブルース論文であるが,Hainmueller and Hopkinsが米国で行ったコンジョイント分析を一部改変して日本で行った結果を分析したものである。冒頭に書いたように近年では,経済的要因に懐疑的な分析が多いが,Hainmueller and Hopkinsも,米国では,回答者の属性にかかわらず高技能の移民が選好されることを根拠として労働市場競争説を棄却している。これに対し,鹿毛・田中・ローゼンブルース論文によると,日本では一般的には労働市場における競争は問題とはならないが,失業者は低技能の外国人労働者に対する嫌悪を示しており,これは労働市場競争説と整合的である。このように,一概に経済的モデルが誤っているわけではない可能性を示唆している。
 最後に樋口論文も日本を扱うが,排外主義に反対する社会政治・勢力がいかにヘイトスピーチ解消法案の成立を実現させたか,その政治過程を分析している。同論文によれば,その政治過程は,社会問題化,議題設定,政策化,の3つのフェーズに分けることができる。最も社会問題化したのは2009年の埼玉県蕨市での在特会によるデモ,そして2013年の新宿区新大久保におけるデモについてのツイートをある参議院議員が目にしたことを議題設定の始まりとしている。その後政策化が始まるが,民主党は当初間口の広い人種差別撤廃施策推進法案の成立を目指していたが,与野党の国会における攻防の結果,継続審議となった。2016年までには公明党がヘイトスピーチに特化した理念法を準備し,これには自民党としても強い異論がなく,同年5月に法案成立に至った。しかし,同法はあくまで刑事罰のない,理念的な法律にとどまっており,これを実質化するために各自治体での条例制定に主戦場は映っているとされる。つまり,反「排外主義」の規範は緒についたばかりであることがわかる。


目次
<特集論文>
トランプ現象とはなにか ─アメリカにおける排外主義の淵源─ 中山 俊宏
欧州懐疑の中の排外主義 ─イギリスにおける「移民」争点─ 若松 邦弘
ヨーロッパにおける2つの反移民感情 ―人種差別と外国人忌避の規程要因分析― 中井 遼
外国人労働者に対する態度 ─コンジョイント分析による研究─ 鹿毛 利枝子
田中 世紀
フランシス・ローゼンブルース
ヘイトが違法になるとき ―ヘイトスピーチ解消法制定をめぐる政治過程― 樋口 直人
<書評論文>
「政治経験と理論」
 松沢裕作『自由民権運動〈デモクラシー〉の夢と挫折』岩波書店,2016年
 富永京子『社会運動と若者 日常と出来事を往還する政治』ナカニシヤ出版,2017年
山田 真裕
比較地域政治の視点から見た沖縄政治
 野添文彬著『沖縄返還後の日米安保:米軍基地をめぐる相克』吉川弘文館,2016年
 櫻澤誠著『沖縄の保守勢力と「島ぐるみ」の系譜:政治結合・基地認識・経済構想』有志舎,2016年
力久 昌幸
<書評>
歴史と比較の間ー田中拓道著『福祉政治史』 評者=砂原 庸介
歴史研究と接近する現代アメリカ政治研究?
 松本俊太著『アメリカ大統領は分極化した議会で何ができるか』ミネルヴァ書房,2017年
評者=白鳥 潤一郎

◆毎号真っ先に読まれる「編集後記」62号

飯田 敬輔

 「排外主義」の企画はやや唐突であるし,飯田はこんなことに関心があったのか,といぶかる向きもあるかもしれない。以前から人権問題には多大な関心を抱いているのであるが,専門の方に気を取られて,そちらの方面の研究はとかくおろそかになりがちであった。トランプ政権が発足して以来,移民が肩身のせまい思いをしているという報道を目にするたび,「外国人」として長期間アメリカで過ごした者としては,身につまされる思いである。学術的関心もさることながら,このような個人的思いの詰まった特集であることにもご留意いただきたい。この分野は日本では主に社会学で研究されてきた分野であるが,日本の排外主義研究の第一人者である樋口氏にご寄稿をいただき,この上ない喜びである。ここに記して感謝したい。

大西 裕

 昨年に続き,選挙管理研究の続編である『選挙ガバナンスの実態 日本篇』(ミネルヴァ書房)を上梓する。2013年に行った全国市区町村選管調査をもとに日本の選挙ガバナンスを問うた。調査で気になったのは,投票所の繰り上げ閉鎖を実施している自治体が半数近くに及ぶという事実と,そうする自治体の傾向である。財政事情,首長の性格,国や都道府県との関係が影響しているようである。選挙管理を規制行政の一つとしてみた場合,地方政治のあり方が反映するのは選挙の公正性を担保するうえで好ましくない。世界篇では,国際的に推奨される,選管の政府からの独立性ばかりが重要なのではないと主張したが,日本篇では,選管の独立性の不足こそが重要だと主張することになり,アンビバレントな感覚が解消できてない。

鹿毛 利枝子

 「クラフツマンシップ」という言葉がある。査読レポートなどで時々目にする言葉であり,直訳すると「職人芸」であるが,意味合いは日本語とはずいぶん違うようである。日本語で「職人芸」といえば,かなりのほめ言葉であり(おそらく),自分の論文に対する査読レポートなどでその言葉を見ると一人で喜びたくもなるのだが,最近アメリカの知り合いの研究者と話していたところ,英語ではそれほどのほめ言葉ではないらしい。いわば「必要最低限」の仕事をこなしたにすぎないときに用いるという。いわゆる“liberal market economy”の国では「職人芸」に対する評価が低いのだろうか。

増山 幹高

 オランダ議会は二院制であり,委員会もあるが,第二院(下院)の本会議で主に論戦が繰り広げられる。定数150ということもあるが,質疑は委員会のような応答式に拠る。議席は扇型に配置され,要部分のカウンターに議員は歩み寄って発言し,議員から右前方の政府答弁者との応酬が左前方に陣取る議長に仕切られるというスタイルになる。こうした双方向の論戦は完成版に近い会議録を90分で公開するという先駆的な方法で記録されているそうである。会議録作成システムへのログイン情報を活用することで,映像と文字のリンクが容易であり,審議映像のキーワード検索・部分再生も近々可能になるらしい。

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